先月見た映画。
「怪物」
大きな湖のある郊外の町。息子を愛するシングルマザー、生徒思いの学校教師、そして無邪気な子供たち。
それは、よくある子供同士のケンカに見えた。しかし、彼らの食い違う主張は次第に社会やメディアを巻き込み、大事になっていく。そしてある嵐の朝、子供たちは忽然と姿を消した・・・。(映画館サイトより)
是枝監督作品。でも今回脚本は本人が手掛けず坂元裕二氏が担当。。結果的にカンヌで脚本賞を受賞しました。音楽はこれが遺作となった坂本龍一。
是枝監督の映画を観るのは「万引き家族」以来かな。
ちょっとヘビーな内容かも・・・と恐る恐るでしたが、なるほどこういう話だったかと。
以下ネタバレありです。
予告編で「怪物だーれだ」と言う台詞が印象的だったので、ひょっとしてモンスターペアレントの映画かなと想像しつつも、そんな安易な内容ではないだろうと思ってました。
湊と言う少年の母親は安藤サクラが演じてます。シングルマザーでしっかり息子を育てている愛情深い女性。映画は大まかに3つの視点で構成されていて、その一つが最初の母親の視点パート。序盤から台詞、仕草、シチュエーションと一つ一つに重要なカギがあるのです。そんな意味では目が離せない作品かも。
自分の息子が学校でいじめられているかもしれない。それを感じた時の母親の必死の行動は納得できるもので、学校の校長はじめ教師たちの心ない対応にはいらだちや怒りを感じるのも当然。最初のパートは母親に共感しながら観てました。
奇妙な言動の校長、頼りない新米の担任。学校側のあんまりな対応に、こりゃ駄目だと思っていたら、次のパートは瑛太が演じる新米担任の視点に変わります。
最初のパートで印象付けられていたものが、あれ?と変化していくのです。
頼りなく、生徒に対して暴力まで振るったと思っていた保利先生の意外な部分。
そして逆に湊の母親が執拗に学校に対して不満を訴えるモンスターペアレントにさえ見えてくる。「怪物」とは誰なのか、と惑わされつつ観ていると、三つめのパートでは湊少年の視点に変わります。
そして、時間を巻き戻し、あの時のあれはこうだったのか、こういう側面があったのかと次々と明らかになってきて、一つ一つ自分の中で咀嚼していく感じ。
登場人物の視点で物語の印象が変わるというのは、黒澤監督の「羅生門」の構造と似通ってますね。
カンヌでクィア・パルムドール賞を獲ったという情報は入ってきてので少し想像は出来てましたが、まだ自分が何者か定まっていない少年、性的マイノリティを作品で扱うということは非常にデリケートで難しい部分があったと思います。
大人として、この子たちをどう守っていけるのか、希望を見出していける世の中していけるのか、随分考えさせられました。
辛い展開があり、嵐が去った後、晴れ渡った緑の中を駆け抜ける二人の少年。
ラストシーンは解釈が二つに分かれているようで、確かにどちらとも捉えられるような描写。でも私自身は彼らの命の輝きと未来への光を感じました。
不意に坂本龍一の名曲が流れてきて鳥肌立ちましたから。
廃列車の中で二人の時間を過ごす描写から少しファンタジー的な雰囲気となり、銀河鉄道の夜かなと想像しつつも、悲劇的なラストはありえない。
そう教授の曲が導いてくれた気がします。(もちろん感じ方は人それぞれです)
結局怪物とは一体誰だったのか。
私はそれぞれが心に抱く思い込みや偏見などが生み出すものと思いましたね。
ちなみに「怪物だーれだ」という台詞は子供たちのゲームの合言葉でした。
安藤サクラも田中裕子も勿論上手かったけど、少年二人が素晴らしく愛おしくて、二人の小さな世界をずっと見ていたくなるような思いでした。
彼らの未来に幸あれ・・・。