今年初映画はカウリスマキ監督

観たかった映画をやってくれるので、いそいそと。

「枯れ葉」

ヘルシンキの街で、アンサは理不尽な理由から仕事を失い、ホラッパは酒に溺れながらもどうにか工場現場で働いている。ある夜、ふたりはカラオケバーで出会い、互いの名前も知らないまま惹かれあう。だが、不運な偶然と現実の過酷さが、彼らをささやかな幸福から遠ざける。果たしてふたりは、無事に再会を果たし想いを通じ合わせることができるのか?(映画チラシより抜粋)

 

カウリスマキ監督の作品は確か2017年の前作「希望のかなた」を観ていましたが、その後引退。でもそれを撤回して今作を撮ったのですね~。

シンプルながら余韻の残るラブストーリー。カウリスマキ監督、健在です!

 

以下、ネタバレあり。

 

 

 

職を転々とせざるを得ないアンサ。ついには肉体労働の作業現場まで。

ギリギリの生活は辛いですね・・・。

ホラッパも工場現場で働いているけど、完全にアル中。

そんな二人が出会って恋に落ちる。それがすれ違ったり再び偶然に出会ったりの連続でその様子にもどかしくなりつつも、どことなく可笑しみのある演出に何度もクスっとなります。いや本当に生活はキツイ状況なんですけどね。

 

全編を流れる音楽はどれも懐かしいような、クセがあるような(笑)

何だかツボにはまってしまう曲もあり。台詞が少ない作品だけに音楽が重要な役割になっているのかもしれません。

アンサを演じる女優さんがムーミンの原作者を描いた映画「トーベ」のアルマ・ポウスティ。中年男女の恋愛をちょっとした動作や表情で巧みに演じています。

淡々とした調子や会話の間合いは小津安二郎監督へのオマージュでしょうね。

他にもブレッソンなどリスペクトしている監督を意識して作ってるのがわかります。

主人公の二人が初デートで観る映画がジム・ジャームッシュのゾンビものだったり!

 

映画館もレトロな雰囲気(ポスターとか)で、カラオケバーや流れる音楽の懐かしさについ昔の物語かと錯覚してしまいますが、時々ラジオからロシアがウクライナに攻撃をしたというニュースが流れ、現実に引き戻されるのです。

しかもガザの現状とも重なってくる。この人類の愚かな戦争がなかなか終わらないという現実にアンサと共に怒りを覚え、そしてそれこそ監督が引退撤回というモチベーションになったのかなぁと想像もしました。

壁に貼られているカレンダーが2024年中期という不思議なシーンもありましたが。

(未来予測?)

 

なかなか酒をやめられないホラッパにはっきり意見するアンサは意志の強い女性です。

私もアル中は抜けるの難しいよなぁ・・・とずっと心配だったのでハラハラしてましたが、ホラッパは本気を出して断酒に成功。でもアンサの元に駆けつける途中、事故に。

そのことが二人の絆を一層深めたのでしょう。共に歩んでいく場面で終わります。

あー、そうか。この既視感。映画モダンタイムスのラストシーン。

ここにも監督のリスペクトがありましたね。

アンサが引き取った犬(無茶苦茶可愛いです!)の名前を明かしてなるほどと納得。

どちらかと言うと、アンサとワンコが並んで歩いて、ホラッパは松葉づえで後ろから遅れて付いて行ってる感じが(笑)   しみじみしながら、またもやクスッとなりました。

しかもエンディング曲がシャンソンの「枯れ葉」。これはもう余韻たっぷりでしばらく脳内ずっと流れました。上映時間80分ほどのコンパクトな尺も良かったです。

小道具、衣装などに使われるフィンランドの洒落た色合いも印象に残り、地味ながらも佳作と感じました。