燃え上がる愛の炎

またしても日記アップが遅くなりました。

先月映画を観てたのに・・・今頃。

f:id:yun7neco:20210529004500j:plain

 

「燃ゆる女の肖像」

画家のマリアンヌはブルターニュの貴婦人から、娘のエロイーズの見合いのための肖像画を頼まれる。だがエロイーズ自身は結婚を拒んでいた。身分を隠して近づき、孤島の屋敷でひそかに肖像画を完成させたマリアンヌは、真実を知ったエロイーズから絵の出来栄えを否定される。描き直すと決めたマリアンヌに、意外にもモデルになると申し出るエロイーズ。キャンバスをはさんで見つめあい、美しい島を共に散策し、音楽や文学について語り合ううちに、恋に落ちる二人。約束の5日後、肖像画はあと一筆で完成となるが、それは別れを意味していた。(映画館サイトより)

 

アート性の高い映画です。序盤からもう惹きつけられる画面の強さがあり、とても絵画的。一人の画家が小舟に乗って島にやってくる・・・大事な画材を抱えて。

何となくどこかで見たような?  昔観た映画「ピアノ・レッスン」思い出しました。あちらは主人公にとって大事なものはピアノ。ストーリー的には違うのですが、女性の抑圧された時代と言うことで共通点ありますね。

以下、今回もネタバレありです。

 

評判の良い映画であると知ってはいましたが、例によってあまり情報を入れずに観るタイプなので、物語に入り込みながら、なるほどこんな映画か!と。

女性である画家とモデル、観る、観られる関係、その濃密な時間!

エロイーズが結婚を拒んでいるため、自分が画家であることを隠して散歩相手として近づくマリアンヌ。当時は肖像画がお見合い写真のようなものだったので、昼間に海岸を散歩しながらバレないように表情を観察したり、ササっとスケッチしたりして、あとは自室でキャンバスに描いていくのですが・・・これは難しいですよね。

エロイーズがいきなり部屋に訪ねてくることもあり、慌ててキャンバス、画材を隠してはいましたけど、いやいや、油絵だから匂いですぐにバレるのでは?と思ったり。

でもそんなことは気にならなくなるほど、その後の展開、構成が素晴らしかった。

 

完成した肖像画は自分ではないと納得しないエロイーズが自ら進んでモデルになる。

モデルを見つめる画家は逆にモデルから見られることに。5日間で描き直すという(これも乾きづらい油絵だとなかなか無茶な日程ですけど)予定で、その間、エロイーズの母親は留守。二人の距離は益々近づき、次第に愛を確かめ合っていく・・・。

と、普通ならここは二人だけの世界になるところが、女中のソフィも加わって、ちょっと不思議な共同生活になります。ソフィは想定外の妊娠で堕胎を決意していて(父親不明)、その場にマリアンヌたちも付き添い、三人の間に絆的なものも生まれるのですが、

身分関係なく三人三様で生活し、ギリシャ神話の話で盛り上がるなど何だか楽しそうで、ずっとこの時間が続くといいのにと思うぐらい。そのギリシャ神話、オルフェウスの話はこの映画で重要なモチーフともなってるんですね。見事です。

 

その幸せな時間も、5日間で終わってしまいます。女性だけのユートピア的な画面に、いきなり現れた男性(迎えの者?)のシーンには私もギョッとしてしまいました。

考えるとほぼ男性が出てこない映画なんですね。知らず知らず、私もこの女性だけの心地良さに入り込んでいたというか。このあたりの見せ方も巧いな。

肖像画を完成させ、別れの時が来てしまったと息が止まりそうになるマリアンヌの気持ちが痛いほど伝わります。

芸術家であるゆえ、良い作品を描きたい。描き直した作品はエロイーズの内面をも描き出し、輝く作品となり、彼女たち自身も満足した。でも二人は結ばれない・・・なんて切ないんだろう。

 

f:id:yun7neco:20210529030748j:plain

画家としての役割を終えて屋敷を去ろうとするマリアンヌはエロイーズに呼び止められ、最後に一度振り向く。

別れから数年の時が流れ、二人は偶然同じコンサートホールに居合わせる。

結婚し、母となったエロイーズ。演奏中マリアンヌは彼女を見つめるが、エロイーズは決して振り返らない。ホールに響くのは二人の思い出の曲であるビバルディの「夏」

迸るあの激しい思い・・・何だか凄いものを見たな~と感じ入りました。

 

どの場面もとても美しく、印象深い映画でした。映画のポスターになってるドレスに火が燃え移る場面も、女性だけの祭りで独特なコーラスが響き、夢の中の出来事のような雰囲気。赤や緑、紺色のドレスで表す二人の対照的なイメージ、海岸での風よけのターバン?ストール?は目だけ強調され、まさに視線の映画であるということ感じさせられました。

 

二人の愛の結晶でもある肖像画は嫁ぎ先の屋敷に飾られているのでしょう。

映画冒頭で登場したドレスに火が燃え移った姿の絵、これはマリアンヌが後から記憶を頼りに描いて大事にずっと手元に置いているということかな。そしてエロイーズの持つ本の中にはマリアンヌの自画像のスケッチが存在している。愛は永遠に封じ込められているのですね。